
あらすじ
山のキャンプ場を営む典子の元に突然の来訪者がやって来る。それは、1年前に少年院を出所した甥っ子のユウキ。ユウキは、典子の姉である母親を探していると、このキャンプ場にやってきたが、典子が義理の兄に電話すると、ユウキと義理の兄はうまくいっていないとのこと。ユウキにキャンプ場でバイトをさせてあげ、「私にできることは、あなたの話を聞くことだけ」と寄り添う典子は、近所に住む明夫によると、人の表情を読み取るのが苦手で、言葉が大事。「世界の見方は皆同じじゃない」と言う典子に、次第に心を許していくユウキ。
そんなある日、典子の息子でユウキの同い年の従兄弟である健二が、大学の友達とキャンプにやってくる。森の植物や星など、ユウキと由香理が共通の話題で盛り上がるのを見て嫉妬した健二は…




















コメント
監督・脚本:佐藤慶紀 コメント
本作は、18・19歳の厳罰化を目的とした、2022年の少年法改正に対して抱いた疑問から制作を始めました。
この改正には、多くの専門家から「更生の機会を奪い、少年法の理念に反する」といった倫理的な批判や、「統計的に少年犯罪は減少傾向にある」といった実証的な批判もあり、私もそうした指摘に同意します。ただ同時に、「なぜ、厳罰の対象となるような事件が起きてしまうのか」「未然にそれを防ぐことはできないのか」という根本的な問いに向き合いたいと思いました。
その過程で、「生きづらさ」というテーマが浮かび上がってきました。
本作では、生きづらさを抱えているのは少年院を出所したユウキだけではありません。彼が訪ねる叔母・典子もまた、異なるかたちで生きづらさと向き合っています。ユウキの場合は、家庭環境や社会との関わりのなかで生まれた心理的な要因によるものです。一方で典子は、持って生まれた感覚や行動の傾向が日常生活の中で周囲とずれてしまい、それが生きづらさにつながっています。
そうしたふたりが、相手の「生きづらさ」にどう気づいていくのか。そして、そのなかで「対話」はどのような役割を果たしうるのか描きたいと思いました。
また本作では、自然をただの背景としてではなく、出演者と同等の存在として捉えたいと思いました。絶滅に瀕した原始植物を探す由香理の姿には、言葉にならない違和感や感覚に導かれるもうひとつの対話を重ねています。声なき自然の道理に触れることが、何かを見つめ直すきっかけになればと思いました。
主演の筒井真理子さんはもちろん、髙田万作くんも、非常に感受性が豊かで、繊細な表現ができる俳優です。特に、ふたりの対話シーンでは、お互いの「私」がふっと消えているように感じる瞬間がありました。それはふたつの存在の響き合いのように感じ、素晴らしかったです。
本作では、夕闇や夜明け前の、景色と輪郭が溶け合い、一体感を感じられるひとときを大切に撮影しました。ぜひ、劇場でご覧いただけたら嬉しいです。
典子役:筒井真理子 コメント
最初に脚本と出会ったとき、読み進めるごとに自分の心の器がひたひたと典子で満たされていく感覚になったのを覚えています。
大自然に囲まれて最少人数で映画を作っている時は、まるで現実から隔離されたようで、それもまた心地よく自身が研ぎ澄まされていきました。
佐藤監督の演出は静寂の中で時が流れ、俳優たちはその世界に浸りながら呼吸をしていました。
この作品を観て自分や身近な誰かに似た人を見つけてほしいと思います。
人が人に逢いに来る。
そんなシンプルな物語が、こんなに豊かな映画になることに驚いています。
ぜひ劇場で一緒に呼吸してほしいです。
ユウキ役:髙田万作 コメント
僕自身が感じる生きづらさと、息苦しい世の中に反抗する若者の心の奥底からの叫びを、ユウキの命にふきこみました。
典子役の筒井さんとは初めてご一緒させて頂きましたが、台詞を交わすたび、包み込むような懐かしさと愛情を感じ、役者としてたくさんの刺激を頂きました。
皆様には、ユウキを我が子のように見守っていて欲しいと思います。
不器用ながらも少しずつ愛を知っていく少年の姿に、きっと心打たれるでしょう。
1本の映画を通して、少年犯罪や若者のあり方、そして大人たちの役割を見つめ直すきっかけになればと願っています。
是非劇場でご覧下さい。