イントロダクション

釜山映画祭正式出品作品『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』の
佐藤慶紀監督が、筒井真理子×髙田万作で対話をテーマに新作を制作

釜山映画祭正式出品作品『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』で、分かりあえないからこそ対話を続ける必要があるののではないかと探求した佐藤慶紀監督が、『淵に立つ』『よこがお』『波紋』など全ての作品で圧倒的な演技を魅せ、多数の主演女優賞を受賞している唯一無二の名優、筒井真理子と、三宅唱監督のロカルノ国際映画祭正式出品作品『旅と日々』で大注目の髙田万作を迎え、新たに対話の重要性を描く作品を制作した。

民法で大人扱いとなったことで、2022年の少年法の改正で18、19歳を厳罰化することになったことに疑問を持った佐藤監督が、「生きづらさ」を抱える思春期の青年と、同じく「生きづらさ」を抱えて生きてきた大人、そして、すごく繊細でどこにでも生きていけるわけではない珍しいコケを探す女子学生との交流を通して、言葉にして対話をすることの重要性を描く。

一見他の人と変わらないように見えるが、他者とのコミュニケーションに生まれながら難を抱える典子役で筒井真理子、複雑な家庭環境や過去を抱える18歳の青年役・ユウキ役で髙田万作がW主演。その他、典子の理解者である明夫役で、にしやま由きひろ、ユウキの従兄弟・健二役で、第30回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでDDセルフプロデュース賞受賞の徳永智加来、由香理役で「STARDUST × sweet モデルオーディション」で、3000人の応募者の中からグランプリを受賞しデビューした中澤実子が出演する。

あらすじ

山のキャンプ場を営む典子の元に突然の来訪者がやって来る。それは、1年前に少年院を出所した甥っ子のユウキ。ユウキは、典子の姉である母親を探していると、このキャンプ場にやってきたが、典子が義理の兄に電話すると、ユウキと義理の兄はうまくいっていないとのこと。ユウキにキャンプ場でバイトをさせてあげ、「私にできることは、あなたの話を聞くことだけ」と寄り添う典子は、近所に住む明夫によると、人の表情を読み取るのが苦手で、言葉が大事。「世界の見方は皆同じじゃない」と言う典子に、次第に心を許していくユウキ。

そんなある日、典子の息子でユウキの同い年の従兄弟である健二が、大学の友達とキャンプにやってくる。森の植物や星など、ユウキと由香理が共通の話題で盛り上がるのを見て嫉妬した健二は…

コメント

  • 監督・脚本:佐藤慶紀 コメント

    本作は、18・19歳の厳罰化を目的とした、2022年の少年法改正に対して抱いた疑問から制作を始めました。

    この改正には、多くの専門家から「更生の機会を奪い、少年法の理念に反する」といった倫理的な批判や、「統計的に少年犯罪は減少傾向にある」といった実証的な批判もあり、私もそうした指摘に同意します。ただ同時に、「なぜ、厳罰の対象となるような事件が起きてしまうのか」「未然にそれを防ぐことはできないのか」という根本的な問いに向き合いたいと思いました。

    その過程で、「生きづらさ」というテーマが浮かび上がってきました。

    本作では、生きづらさを抱えているのは少年院を出所したユウキだけではありません。彼が訪ねる叔母・典子もまた、異なるかたちで生きづらさと向き合っています。ユウキの場合は、家庭環境や社会との関わりのなかで生まれた心理的な要因によるものです。一方で典子は、持って生まれた感覚や行動の傾向が日常生活の中で周囲とずれてしまい、それが生きづらさにつながっています。

    そうしたふたりが、相手の「生きづらさ」にどう気づいていくのか。そして、そのなかで「対話」はどのような役割を果たしうるのか描きたいと思いました。

    また本作では、自然をただの背景としてではなく、出演者と同等の存在として捉えたいと思いました。絶滅に瀕した原始植物を探す由香理の姿には、言葉にならない違和感や感覚に導かれるもうひとつの対話を重ねています。声なき自然の道理に触れることが、何かを見つめ直すきっかけになればと思いました。

    主演の筒井真理子さんはもちろん、髙田万作くんも、非常に感受性が豊かで、繊細な表現ができる俳優です。特に、ふたりの対話シーンでは、お互いの「私」がふっと消えているように感じる瞬間がありました。それはふたつの存在の響き合いのように感じ、素晴らしかったです。

    本作では、夕闇や夜明け前の、景色と輪郭が溶け合い、一体感を感じられるひとときを大切に撮影しました。ぜひ、劇場でご覧いただけたら嬉しいです。

  • 典子役:筒井真理子 コメント

    最初に脚本と出会ったとき、読み進めるごとに自分の心の器がひたひたと典子で満たされていく感覚になったのを覚えています。

    大自然に囲まれて最少人数で映画を作っている時は、まるで現実から隔離されたようで、それもまた心地よく自身が研ぎ澄まされていきました。
    佐藤監督の演出は静寂の中で時が流れ、俳優たちはその世界に浸りながら呼吸をしていました。

    この作品を観て自分や身近な誰かに似た人を見つけてほしいと思います。
    人が人に逢いに来る。
    そんなシンプルな物語が、こんなに豊かな映画になることに驚いています。

    ぜひ劇場で一緒に呼吸してほしいです。

  • ユウキ役:髙田万作 コメント

    僕自身が感じる生きづらさと、息苦しい世の中に反抗する若者の心の奥底からの叫びを、ユウキの命にふきこみました。
    典子役の筒井さんとは初めてご一緒させて頂きましたが、台詞を交わすたび、包み込むような懐かしさと愛情を感じ、役者としてたくさんの刺激を頂きました。
    皆様には、ユウキを我が子のように見守っていて欲しいと思います。

    不器用ながらも少しずつ愛を知っていく少年の姿に、きっと心打たれるでしょう。
    1本の映画を通して、少年犯罪や若者のあり方、そして大人たちの役割を見つめ直すきっかけになればと願っています。

    是非劇場でご覧下さい。

監督・脚本・編集・プロデューサー

佐藤慶紀(Yoshinori Sato)

1975年2月13日生まれ。愛知県出身。
アメリカの南カリフォルニア大学・映画制作部卒業。2013年、長編第1作目『BAD CHILD』が、第29回ロサンゼルス・アジア太平洋映画祭に正式出品。長編第2作目の『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』(16)は、釜⼭国際映画祭ニューカレンツ部⾨、大阪アジアン映画祭などに正式出品され、ヴズール国際アジア映画祭インターナショナルコンペティション部門でスペシャルメンションを受賞。2019 年、ドキュメンタリー映画『新宿タイガー』が、大阪アジアン映画祭にて正式出品され、東京・テアトル新宿を⽪切りに全国で上映された。

劇場情報

2025年10月7日現在

北海道・東北

関東地方

地域 劇場 公開日 備考
東京 ケイズシネマ 11月22日(土)〜
栃木 宇都宮ヒカリ座 12月26日(金)〜
栃木 小山シネマロブレ 11月28日(金)〜

北陸・甲信越地方

地域 劇場 公開日 備考
長野 千石劇場 11月22日(土)〜

東海地方

地域 劇場 公開日 備考
愛知 シネマスコーレ 近日公開

関西地方

地域 劇場 公開日 備考
大阪 第七藝術劇場 11月22日(土)〜
京都 京都シネマ 11月28日(金)〜
兵庫 元町映画祭 上時期調整中

中国・四国地方

九州・沖縄地方

地域 劇場 公開日 備考
大分 別府ブルーバード劇場 12月5日(金)~